必要な用語や手法に関する解説も一緒におこなっていきますので、参考書代わりに本記事を使ってみてください。
目次
令和3年測量士補試験No.10の問題文
次のa〜dの文は,水準測量における誤差への対策について述べたものである。(ア)〜(エ) に入る語句の組合せとして最も適当なものはどれか。次の中から選べ。
- (ア) を小さくするには,レベルと三脚の特定の2脚を進行方向に平行に整置し,そのうちの1本を常に同一の標尺に向けて観測する。また,レベルの整準は,望遠鏡を特定の標尺に向けて行う。
- 大気の屈折による誤差を小さくするには,視準距離を可能な限り(イ)する方が良い。
- 標尺の(ウ)は,観測点数を偶数にすることで小さくすることができる。
- 標尺台の沈下による誤差を小さくするには,後視・前視・(エ)の順序で観測する。
(回答群)
1.(ア)視準線誤差(イ)長く(ウ)目盛誤差(エ)前視・後視
2.(ア)視準線誤差(イ)短く(ウ)目盛誤差(エ)後視・前視
3.(ア)鉛直軸誤差(イ)短く(ウ)零点誤差(エ)後視・前視
4.(ア)鉛直軸誤差(イ)長く(ウ)目盛誤差(エ)後視・前視
5.(ア)鉛直軸誤差(イ)短く(ウ)零点誤差(エ)前視・後視(令和3年測量士補試験問題集 No10より)
令和3年測量士補試験No.10の解答・解説
「水準測量」の分野からの出題です。
解答は「5」となります。以下、各選択肢の詳しい解説です。
選択肢aについて
選択肢aでは、視準線誤差と鉛直軸誤差のどちらかの誤差へのの対応について述べられています。
視準線誤差と鉛直軸誤差、それぞれの内容について見ていきましょう!
視準線誤差とは
視準線誤差は
- 気泡管軸
- 視準線
2つが平行ではないために起こってしまう誤差です。
レベルを設置する際には、器械についている気泡管を参考に「器械が水平かどうか」を確認します。
(レベルを見たことがない方は、家にある洗濯機などについている気泡管をイメージしてください。)
ただ、気泡管を使って器械を水平に保っても実際に視準するレンズ部分がその気泡管と平行になっていなければ、その状態で高さを観測しても正しい値とはいえません。
それでは、この視準線誤差はどのように小さくすればいいのでしょうか。
方法は次の2つです。
- センターレベリング
- 杭打ち調整法
センターレベリングは名前にセンター(中央)が入っているように、2つの標尺から等距離にあたる真ん中の位置にレベルをおいて観測する手法です。
中央に置くことで、視準線誤差による観測結果への影響を少なくすることができます。
また、レベルを設置する場所は2つの標尺を結んだ直線状にすることも重要になってきます。
上記のようにセンターレベリングでは観測する方法で誤差を小さくしていますが、一方で杭打ち調整法では器械の視準線そのものを調整して誤差を小さくします。
今回の問題に関してはそこまでの知識は不要ですので、杭打ち調整法の詳しい解説についてはまた別の記事で紹介します。
視準軸誤差に関してまとめると以下のようになります。
誤差名 | 原因 | 対処法 |
視準軸誤差 | 気泡管軸と視準線が平行でない | ・センターレベリング |
鉛直軸誤差とは
鉛直軸誤差は、レベルの鉛直軸が水平方向とは鉛直ではないために起こる誤差です。
鉛直軸誤差も視準線誤差と同様に、標尺で読む高さに誤差が生じてしまいます。
視準線誤差の場合はセンターレベリングで対応できましたが、鉛直軸誤差の場合はそうはいきません。
視準線誤差はあくまで視準線の傾きの誤差のため前視と後視の観測の切り替え時に誤差の影響が出ていました。
一方で鉛直軸誤差は器械そのものの軸が傾いてしまっているため、三脚を据えた段階で誤差による影響が出てしまうのです。
上図のように据えるたびに傾いている軸の方向が変わってしまうと、誤差の値がばらつくので対応することができません。
それでは、どのように対するのか…この答えは次の通りです。
- レベルと三脚の特定の2脚を進行方向に平行に整置し,そのうちの1本を常に同一の標尺に向けて観測する
これを図で表すと次の様になります。
進行方向に対して特定の2脚を平行に設置(上図では青と緑の脚)し、そのうちの一本を同一の標尺に向けています(上図では緑の脚を標尺Aに、青の脚を標尺Bに向けている)。
こうすることで常に軸の傾く方向を一定に保つことができ、レベルで読み取る高さの誤差への影響を少なくすることができるのです。
また、レベルの整準をする際に望遠鏡を特定の標尺に向けて行うことも有効な対応です。
よって今までのことをまとめますと、次の表のようになります。
誤差名 | 原因 | 対処法 |
鉛直軸誤差 | 鉛直軸が水平方向と垂直に交わっていない | ・進行方向に対し特定の2脚を平行に設置、およびそのうちの一本を同一の標尺へ向ける |
今回は鉛直軸誤差の内容が選択肢aに当てはまります。
選択肢bについて
選択肢bでは、大気の屈折による誤差を考慮したときに視準距離を長くするべきか、短くするべきかを聞かれています。
まず、大気の屈折による誤差はなぜ起こるのでしょうか?
その原因は「大気中のゆらぎ」にあります。
例えば、夏の暑い日にコンクリートを見るとぼやけて見えたり、海や湖の向こうに目る景色がゆらゆらと揺れて見えたりすることはありませんか?
上記のような現象は、寒暖差などで空気中の密度が場所によって変わり光が屈折するために起こります。
水準測量の場合でも観測中に同じようなことが起きて、正確な標尺の値を読み取れなくなってしまうことがあるのです。
特に測量のようなmm単位で数字を見ていく作業では、目に見えないほど小さなゆらぎでも影響を与えています。
そしてこのゆらぎの影響は、空気に触れる時間が長くなるほど大きくなります。
レベルと標尺の間の距離が長くなるほど間にある空気量が増えるので、大気の屈折による誤差が大きくなります。
つまり、誤差をなるべく小さくするにはレベルと標尺の間の距離を「短く」すれば良いということになりますね。
選択肢Cについて
選択肢Cでは、目盛誤差と零点誤差のどちらかの内容について述べられています。
目盛誤差と零点誤差、それぞれの内容について見ていきましょう!
目盛誤差とは
目盛誤差は、名前の通り標尺の持つ目盛と実際の高さの差のことです。
標尺に刻まれている目盛が正しくないことが原因で起こる誤差となります。
ただ、基本的に測量で使用する標尺は第三者機関による測量機器の検定を通っていることを前提としているので、あくまでその誤差は小さなものです。
そんな目盛誤差に対応するためには、
- 往復で観測する際に、往路の終着点と復路の出発点の標尺を入れ替えること
が有効な手段となります。
往路と復路それぞれで通る同じポイントに同一の標尺が立たないようにすることで誤差の影響にかたよりがなくなり、目盛誤差を小さくすることができます。
零点誤差とは
零点誤差とは、標尺の下端部分が擦り減っていくことで発生する誤差のことです。
標尺の下端部分のことを零点と言い、日々の水準測量の作業の中で標尺を使い続けることでどんどん零の位置が擦り減り、変わってしまいます。
この零点誤差の対応として有効なのが
- 標尺の設置回数を奇数回にする
- レベルを据える回数を偶数にする
といった対応です。
これらは言葉を言い換えているだけで、レベルを据える回数が偶数になれば標尺を設置する回数は奇数になります。
レベルを据える回数を偶数回にすることで、出発点と終着点に同じ標尺を使用できますね。
これが結果的に出発点の後視と終着点の前視で同じ標尺を観測することとなり、零点誤差を相殺することができます。
言葉にしても原理が良くわからないと思うので、実際に図で表して計算してみるとよくわかります。
図の左側から右側へ向かって観測を進めていくと仮定します。
各観測点ごとの標高を計算していくと、偶数回目に標尺を据える地点にだけXmの誤差が残っていることが分かりますね。
逆に奇数回目には誤差が残っていません。
このことからも
- 標尺の設置回数を奇数回にする
- レベルを据える回数を偶数にする
といった対応が有効であることが分かります。
よって選択肢Cの文章は、零点誤差に適用できることが分かります。
選択肢dについて
選択肢dでは、標尺台の沈下による誤差を小さくするための観測の順番を問われています。
- 後視→前視→後視→前視
- 後視→前視→前視→後視
順番については作業規程の準則に記載があるので、参照すれば一発で分かります。
実際に作業規程の準則を参照してみましょう!→作業規程の準則(32P下部)
1級水準測量では後視→前視→前視→後視の順番
2級水準測量では後視→後視→前視→前視の順番
とそれぞれ記載がありますね!
今回の問題では1級水準測量の順番が当てはまりそうです。
よって「後視→前視→前視→後視」の順番が正解と考えられます。
ただ、今回は標尺台の沈下による誤差の影響を少なくするための順番なのでなぜ上記の順番が有効なのかも調べました!
しかしながら、周囲の人を頼ったりネットや本で情報を探ったのですが見つからず…
また根拠が見つかれば追記をしていきたいと思います。
もしくは理由を知っている方はコメントで教えていただけると幸いです。
令和3年測量士補試験No.10のまとめ
「水準測量」からの出題でした。
水準測量には様々な誤差があり、その誤差の値を少しでも小さくするために様々な対策がとられています。
水準測量の原理や誤差の原因をしっかりと理解していれば、どのような対策を取ればよいかもイメージしやすいです。
水準測量には今回の問題の選択肢以外にもたくさんのルールがあります。
他の年度の水準測量の問題も解く必要がありますので、様々な問題にチャレンジしていきましょう!
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